「好きだよ、ハナ」

「……え?」


 思わぬことに、わたしは目を見開いた。
 目の前にいる男性は、ずっとずっと密かに想いを寄せてきた魔法騎士、キース様。彼の真っ白な肌がほんのりと紅く染まって、サファイアみたいに綺麗な瞳が熱っぽく潤んでいる。仄かに薫る薔薇の香りは、普段彼が付けている香水とは違う。


(わたしが……わたしの魔法が、効いた…………?)

「ハナ?」


 キース様は、愕然とするわたしの顔をそっと覗き込んだ。太陽の光を直接分け与えられたみたいにキラキラ輝く髪の毛も、めちゃくちゃ高い鼻も、綺麗に弧を描いた桃色の唇も、全部全部浮世離れしている。


(夢? 夢なのかなぁ?)


 自他ともに認めるポンコツ魔女であるわたしの魔法が成功する確立は、限りなく低い。こんなタイミング、こんな形で実を結ぶなんて、とてもじゃないけど信じられない。


「返事を聞かせてくれないの?」


 キース様は低く、少し掠れた声でそんなことを言った。心臓を直撃する甘くて魅惑的な声音に、身体中の血液が沸騰する。このまま死んじゃうんじゃないかって錯覚するぐらい心臓がバクバク鳴り響くし、身体が熱くて堪らなかった。


「わたし……わたしは…………」


 キース様のことが好きだ。もう何か月も前からずっと片思いをしている。この片思いがほんの一瞬でも叶ったら……なんて馬鹿なことを考えて、惚れ薬をこさえるぐらいに、好きだ。
 だけど、効果があるなんて思ってなかった。絶対、絶対失敗するって思っていたから、つい先ほど、めちゃくちゃ軽い気持ちで、出来立てほやほやの惚れ薬をキース様に向かって吹きかけた。その結果がこれだ。正直頭の中がパニくってて、どうしたら良いか、全然分かんない。


「俺はハナが好きだよ」


 キース様はそう言って、わたしの指先にそっと唇を寄せた。チュッて音がすると同時に、身体中の毛穴がぶわって一気に開き、中心に熱が集まる。


「わたしも、キース様が好きです」


 偽りなのに。キース様の本心じゃないって分かっているのに、ズルいわたしはそう言って手を伸ばす。彼の真っ白な騎士装束を掴んで引寄せて、それから必死に顔を上げた。何も知らないキース様は、優しい笑顔を浮かべてわたしを見つめている。涙が一気にこみ上げた。