アリシャは呆気に取られていました。彼女はいつも悪いことばかり想像していて、自分に都合の良い想像はしたことがなかったのです。


「ディミトリー様」

「なんだい、アリシャ」

「これは一体……」


 姉達がアリシャの目の前で連行されていきます。あっという間の出来事でした。未だ、何が起こったのかきちんと受け止められていません。


「悪いことをしたら、ちゃんと償いをしないといけないだろう?」


 ディミトリーは真顔でそんなことを言います。アリシャは一つ、事実を受け止められました。


「あの……それは分かりましたけど、婚約者とは?」


 文脈から判断するに、あれはアリシャを指すはずですが、生憎とアリシャには身に覚えがありません。アリシャに縁談が来ようものなら、姉達が全力で潰しにかかる筈だからです。


「当然、アリシャのことだよ」

「私、ですか?」


 アリシャは目をぱちくりさせながら、もう一度首を傾げました。


「だって、両親に会ってくれるんだろう?」


 ディミトリーは穏やかに微笑みつつ、そう言います。途端にアリシャの心臓が、訳の分からない自己主張を始めました。彼女にとってそれは、初めての経験です。頬が熱くなり、息が上手くできません。半ばパニックに陥ったアリシャを、ディミトリーが後からしっかり支えます。それが却って、彼女の動揺を助長させました。


「わっ……私は! あなたのご両親に仕事を紹介してもらえるものと、そう思っていたのです」


 アリシャはディミトリーが王子であることに気づいていました。その上で『城で仕事を貰えたら良いなぁ』と、そう思っていたのです。