「良かった、アリシャ! 生きていたのね!」
「ずっと探していたのよ」
「あなたの乗っていた馬車が行方不明になって……わたくし達がどれほど心配したことか!」


 姉達は口々にそんなことを言います。


「……一体、なにを言っているの?」


 アリシャは思わず呟きました。姉達の発言に対して、アリシャが疑問を呈すのは初めてのことです。これまで、どれ程酷いことをされても何も感じなかったというのに、今は違います。アリシャの中でどす黒い感情がとぐろを巻くようにして蠢いていました。


「今まで一体どこにいたの?」
「ビックリしたわ! ディミトリー殿下と一緒にいるんだもの」
「本当に、こんなところであなたに再会できるなんて、思っていなかったわ」


 媚びるような視線がディミトリーに注がれます。
 殿下――――ディミトリーはこの国の第三王子でした。王位継承権は持たないものの、いずれは爵位を得て、活躍を期待されている御方です。森や妖精たちの研究をすることは、彼の大事な公務の一つでした。


「あぁ、殿下にはなんとお礼を申し上げたら良いか」
「さぁ、一緒に家に帰りましょう?」
「早くそこから降りなさい」


 姉達の唇は弧を描いていますが、瞳は笑っていませんでした。

『何故アリシャ如きが殿下と一緒に居るの――――?』
そんな激しい憎悪と嫉妬が見え隠れしています。

 姉達は、何とかしてこの場を取り繕うとしていました。アリシャを心配している振りをし、自分たちがアリシャを森に捨て置いたことを『無かったこと』にしようとしています。
 加えて彼女達は、一刻も早くアリシャをディミトリーから引き離したいと思っていました。姉達のそんな意図は容易に透けて見えます。それがアリシャを激しく苛立たせました。