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 さて、二人が森を出る日がやってきました。たくさんの騎士たちがやって来て、屋敷の中の荷物を運び出します。
 アリシャは豪奢なドレスを着せられ、馬に乗せられました。森を抜けるには不似合いなドレスです。けれど、ディミトリーは頑として譲りませんでした。なんでもそれは、必要なことだと言うのです。二人仲良く馬に乗って、ゆっくりと森を後にします。
 妖精達はとても、寂しそうにしていました。彼等は都会で暮らすことが出来ないのです。


「また来るよ。アリシャも一緒に、ね」


 言えば妖精たちは、とても嬉しそうに笑いました。



 森を抜けて王都に入ると、街道がたくさんの人で賑わっていました。熱い視線がアリシャとディミトリーに注がれます。街の真ん中を騎馬で練り歩くなど、普通は許される行為ではありません。けれど、誰一人として止めるものはいませんでした。


(変なの)


 破けたドレスで街を歩いた時とは、異なる種類の視線でした。アリシャは酷く居心地が悪く、馬から降りることを主張します。けれど、ディミトリーがそれを許しませんでした。


「ダメだよ。見せつけなきゃいけないんだから」


 誰に?と尋ねようとしたその瞬間、アリシャには答えが分かりました。


「アリシャ! ……やっぱりそうだわ! お母さま、アリシャよ!」


 甲高い、芝居がかった声が響き渡ります。二人の道を塞ぐようにして、三人の女性が躍り出ました。アリシャの姉と継母です。
 三人は貼り付けたような笑みを浮かべ、あぁっ!と大仰な声を上げます。