(私が戻れば、姉達は心底嫌な顔をするのだろうなぁ)


 それ自体は見て見たい気もしますが、彼女達の元に戻りたい訳ではありません。同じことを繰り返しても、不毛なだけです。
 アリシャは頭をフル回転させました。考えうる最悪の状況を必死に考えているのです。


(ディミトリー様ならきっと、私が森を出るための手助けをしてくださるでしょう)


 彼は女性一人で森を抜けろと言うような薄情な方ではありません。麓まではきっと同行してくれるでしょう。けれど、その後のことは想像できません。


(彼とさよならをして、それで――――)


 自分はどうするのだろう?そんな不安が胸を過ります。


「アリシャ、あのさ」


 ディミトリーが徐にそう切り出します。


「この森を出たら――――僕の両親に会ってくれないか?」


 彼の言葉はそんな風に続きました。アリシャは驚きに目を見開きます。それは、あまりにも思いがけない提案でした。


「良いのですか?」

「もちろん。アリシャが良ければだけど」


 そう言ってディミトリーはアリシャの手を握ります。白くて細い手のひらでした。それでも、初めて会った日よりは、多少肉付きが良くなっています。


「――――よろしく、お願いします」


 アリシャの声は震えていました。