「鬱陶しい」

「えぇっ⁉」


 本日二回目の叫び声でした。妖精は絶望的な表情を浮かべ、アリシャの周りを飛び回ります。


「そ、そこはもう少し『可愛い』とか、『妖精に会えるなんて夢みたい』とか、『嬉しい』とか、そういう感想を戴きたい所なんですけど…………」

「――――――妖精を見たところでお腹が膨れるわけじゃ有りませんから」


 アリシャの機嫌は、本人が思うより悪化していました。相当お腹が空いていたのです。ドスの効いた声音で、妖精のことを威嚇します。
 妖精は身の危険を感じました。このままアリシャの側に居れば、自分は食べられてしまうかもしれない――――そんな風に思ったのです。


「しっ……失礼しました」


 妖精は苦笑いをしながら後ずさりします。けれどアリシャは、妖精の羽をむんずと掴みました。ひぃっと小さな悲鳴が上がります。


「私の食事になるのと、食事を用意するの――――どっちが良いですか?」


 淡々とした口調からはアリシャの感情は読み取れません。


「後者で! 食事を用意する方でお願いします! っていうか、わたしは最初から、あなたを助けようと思ってここに来たんです!」


 妖精は慌てふためきながらそう言います。アリシャは妖精を解放すると、彼女の後に続きました。


「足、痛いんですけど」


 歩きながら、アリシャはそう口にします。


「わっ、わたし達妖精は怪我や病気は治せません」

「空を飛べるようにしたりとか」

「できません」

「――――――思ったより使えないんですね」


 ふぅ、とため息を吐きつつ、アリシャは眉間に皺を寄せます。
 妖精はアリシャに声を掛けたことを、激しく後悔していました。けれど、そこは妖精の性。困った人を見過ごすことはできません。


(それに、この子にはわたしのことが見えている)


 妖精は誰にでも見えるわけではありません。心の綺麗な人だけが見ることができます。


(正直、とてもそんな風には見えないけど)


 心の中でそう呟くと、アリシャがじっと妖精を睨みます。妖精はもう、考えることを止めました。