ある日のことです。ベッドで眠ったはずのアリシャは、自分の身体が小刻みに揺れていることに気づきました。頭まで布ですっぽりと覆われて、身動きが全く取れません。


(眠い)


 けれどアリシャは声を上げようとはしませんでした。ぐぅぐぅ眠り続け、そのまま朝を迎えます。目覚めた時には、鬱蒼と生い茂った草木が四方を覆っていました。


「おぉ……」


 いつかはこんな日が来るだろうと思っていたアリシャはただ一言、そんな声を漏らしました。彼女は姉たちの手で、森の奥深くに捨てられてしまったのです。


(これからどうしようかなぁ)


 大きな木の幹に座ってぼーーっとしながら、アリシャは考えます。お腹がぐぅと大きな音を立てて鳴りました。既に三日ほど、食事を抜かれていたのです。


(迎えに来るつもりはないんだろうなぁ)


 座っていても仕方がない。アリシャは食べ物を探すため、ゆっくりと立ち上がりました。

 都会育ちのアリシャにとって、森の中は過酷な場所でした。着古した寝間着に薄布で作られた靴。とても森歩きに適した格好ではありません。あちこちに枝が引っかかり、足がツキツキ痛みます。
 おまけに、昼でも日の射さない森の中は酷く冷えました。


(ちょっと休憩)


 アリシャはそう思いつつ、目を瞑ります。ウトウトしていると、何かが彼女の頬を優しく撫でました。


(擽ったい)


 薄れゆく意識の中、アリシャはそんなことを考えます。けれど、待てど暮らせどその感覚は消えてはくれません。


「――――鬱陶しい」


 ついに耐え切れなくなり、アリシャはそう口にしました。「えぇっ⁉」という小さな声が聞こえます。
 目を開けると、彼女の側で何かが飛んでいました。花びらのような鮮やかな羽を持った、愛らしい見た目の妖精です。けれど、アリシャはむすっと唇を尖らせ、ため息を吐きました。