***


「オスカー!」


 人気のない庭園で、私は彼の名前を呼ぶ。
 けれど辿り着いたその場所にオスカーはいなかった。
 

「オスカー……」

(もう遅いのかな)


 彼の話を聞くことも、謝ることも、好きだと伝えることも、もうできないのかもしれない。止め処なく零れ落ちる涙を拭いながら、私は俯いた。


(ううん、それじゃダメ)


 最初から線を引いて諦めるなんて、もう止めた。
 だって私は――――。


「オスカーの側にいたい」


 昔の私だったらきっと口に出せなかった願望。自分に自信が無くて、卑屈で、ずっとそんなこと望んじゃいけないんだって思っていたけど。


「ここだけじゃなくて、二人でもっと色んな場所に行きたい」


 身分の垣根を越えて、オスカーと一緒に居たいって思っていた。恋人らしく過ごせたらどんなに幸せだろうって、ずっとずっと思っていた。だから――――。


「――――――だから婚約を急いだんだよ?」


 その時、背後から優しく抱き締められて、心臓が大きく震えた。それが誰かなんて、振り返らなくても分かる。涙が勢いよく込み上げた。


「オスカー」

「……ミアにとって、身分の違いが大きいって分かっていたから、どうしてもその壁を取り払いたかった。俺がどれだけミアを想っているか、ちゃんと伝えたかったんだ」


 オスカーの腕に包まれたまま、私はクルリと身体の向きを変える。見ればオスカーは困ったように笑っていて、胸の辺りがキュッと締め付けられるみたいに熱くなった。