「話があるんです」


 翌日、私はオスカーにそう切り出した。


「俺も。ミアに話したいことがある」


 オスカーは唇を真一文字に引き結び、躊躇いがちに私を見つめる。いつもとは異なるその様子に、彼が別れを切り出そうとしているのだとすぐに分かった。


(嫌だ、聞きたくない!)


 もう私は、オスカーの側にはいられない。どちらから切り出しても結果は変わらないけれど、オスカーの口から『遊びだった』だなんて聞きたくない。嘘でも『愛されていた』って思っていたかった。


「ミア。俺と――――」

「私はもう、ここには来ません」


 必死の思いで、私はオスカーの言葉を遮った。オスカーは目を丸くし、私を真っ直ぐに見つめている。


「もう、来ないって……」

「オスカーに会うのも今日が最後。今まで本当に、ありがとう」


 深々と頭を下げると、地面にポタっポタっと涙が零れ落ちる。
 だめだなぁ。最後は毅然と笑顔で別れるって決めていたのに。やっぱりシミュレーション通りには進んでくれない。


「――――――どうして?」


 身体中が凍り付くぐらい冷たい声がして、私はハッと顔を上げた。
 見ればオスカーは眉間に皺を寄せ、私のことを睨みつけていた。プライドが傷つけられたのだろうか。


(私と別れることはオスカーの中でも決まっていたことのはずなのに)


 あまりの迫力に身が竦んだ。


「――――婚約が決まったんです」


 大きく息を吸い込んで、私はそう口にする。私の言葉に、オスカーの瞳が大きく揺れた。