(一体どんな手入れをしたら、こんなにサラサラになるんだろう)


 滑らかなオスカーの髪を撫でながら、私は小さく笑った。
 正直私は、オスカーのことを殆ど知らなかった。彼は元々口数が多い方じゃないし、私も尋ねようとしなかった。雲の上の人だって思い知りたくなかったから。


(このままオスカーの側にいたい)


 貴賤結婚や恋愛が認められていないわけじゃない。だけど、物事には釣り合いってものが重要で。身分なんて関係ないって豪語できるほど、私は自分に自信が無かった。


「ミア」


 気づけばオスカーは私のことを真っ直ぐに見上げていた。宇宙を閉じ込めたみたいな綺麗な瞳が揺れていて、私の心臓が大きく跳ねる。


「俺と付き合ってくれる?」


 オスカーはそう言って身を起こし、そっと襟を正す。


(え?)

「どこに行くの?」


 昼休みはもう残り少なで。そもそも学園内で私がオスカーと一緒に歩ける場所は限られているけれど。


「――――ごめん、言い方を間違えた」


 オスカーは困ったように眉間に皺を寄せ、私に向き直った。その顔がどこか緊張しているように見えて、私はゴクリと唾を呑む。


(まさか)


 心の中で首を横に振りながら、私はオスカーから目を逸らす。
 期待なんてしない。しちゃいけないって分かってるけど、願望が私に夢を見せる。


「ミアのことが好きだから、俺の恋人になってくれる?」


 けれど、夢は夢じゃ終わらなかった。オスカーは私を見つめながら、ほんのりと頬を紅く染める。


(恋人? 私がオスカーの?)


 彼の言葉は真っ直ぐで、勘違いのしようもない。本当に?って疑いたくても、とてもじゃないけど冷静になれなかった。


(どうしよう。こういう時、どうしたら良いの?)


 願望のままに「はい」と答えたい私と、「私には無理だ」と首を横に振りたい私がいて。胸の辺りがキュンキュン疼いて堪らない。


「何とか言ってよ」


 オスカーは私を抱き締めながら、拗ねてるみたいな声を出した。


(あっ……)


 その時私は、オスカーの身体が震えていることに初めて気づいた。自分の身体を支えるみたいに私へ縋りつくオスカーが何だかとても愛しくて。
 気づいたら「はい」って答えていた。