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 その日を境に、エーヴァルトは時間の許す限り、グラディアと一緒に居てくれるようになった。
 教室にもまめまめしく顔を出し、放課後も共に過ごす。クリストフが『二人は恋人』だと嫌でも認識できるよう、振る舞ってくれた。

 最初の内は、二人の身分の違いやエーヴァルトの素行を知っているが故に顔を顰める者もいたが、そういう者ほど早々に態度を軟化させていく。

 エーヴァルトは存外、誠実な人間だった。貴族たちを相手に変に謙るでもなく、かといって尊大な態度を取るでもない。身分制度が既に形骸化しつつある、という事情もあるが、皆がエーヴァルトの人柄に惹かれていった。


(彼はきっと、天性の人誑しなんだわ)


 そんなことを思いながら、グラディアは初めてエーヴァルトに会った時のことを思い返す。彼の側に居ることを望んだ幾人もの女の子たち。彼女たちが今、どうしているのかを想像すると、少しだけ良心が疼いた。


「あぁ、平気平気」


 ある日、思い切って彼女たちのことを尋ねてみると、エーヴァルトはあっさりこう答えた。グラディアにはどうして彼がそんな風に断言できるのか理解できない。ティーカップを差し出しながら、小首を傾げた。


「だってあいつら、俺のことが好きなわけじゃねぇもん」

「えっ⁉ そ……それはさすがに無いのでは?」


 あの場に居た女の子たちは皆、うっとりとエーヴァルトのことを見つめていた。それは恋する乙女の瞳ではなかったのだろうか。そう尋ねると、エーヴァルトはケラケラと楽し気に笑った。


「違うよ。あいつらは皆『俺に恋してる自分』が好きなの。顔良しスタイル良しステイタス良しの俺の側に居ることがファッションの一つで、そんな自分が一番可愛いの。
第一、あの時あそこにいた半分以上が彼氏持ちだぞ? 俺がいなくても平気平気。他の何かを見つけて楽しんでるって」


 そう言ってエーヴァルトは、グラディアが作った茶菓子を美味しそうに頬張る。素の自分を出せているせいだろうか。エーヴァルトはどこか楽し気だ。グラディアもつられて穏やかな笑みを浮かべる。