扉を開けると、咽せ返るような白粉や香水の香りがした。部屋の真ん中には一国の王が座るような豪奢な椅子が鎮座しており、そこには一人の男性がどっかりと腰掛けている。

 クシャクシャッと無造作にセットされた金色の髪の毛、夜空みたいな色をした深い青の瞳、整った目鼻立ちに端正な身体。大きく開かれた襟元からはのど仏や鎖骨が見える。
 普段グラディアが接している貴族の男性たちとは全く異なる、どこか退廃的な雰囲気。緊張で心臓がドキドキと鳴り響いた。


「あなた誰? 入る部屋を間違っていない?」


 声を掛けてきたのは、快活な笑顔が魅力的な美しい少女だった。彼女はグラディアのことを上から下まで遠慮なく眺め、面白そうに肩を震わせる。場違いだと、そう言いたいのだろう。けれど、グラディアはめげなかった。フルフルと首を横に振り、そのまま部屋の真ん中へと進んで行く。

 その間、すれ違う幾人もの女性たち。皆、グラディアと同年代の少女だというのに、美しく自信に満ち溢れていて、『女性』という呼称が良く似合う。未だあどけなさの残るグラディアとは正反対だ。それでも、グラディアは引き返すわけにはいかなかった。


「――――エーヴァルト様にお願いがございます!」


 この部屋で唯一の男性の目の前まで進むと、グラディアはそう口にした。彼にしな垂れかかった少女たちが目を丸くする。対するエーヴァルトは、涼しげな表情でグラディアを見下ろしていた。


「わたくしの恋人になってくださいませんか?」


 グラディアの声が木霊する。室内が騒然とした。女性たちの嘲笑にも似た声が響く中、グラディアは真っ直ぐにエーヴァルトを見上げている。


「――――話だけは聞いてやる」


 そう言ってエーヴァルトの口角がニヤリと上がる。信じられないといった少女たちを尻目に、グラディアは嬉しそうに微笑んだ。