最初の方は緊張していた様子の月島だったけど、だんだんとエンジンが上がってきたのか楽しそうにしている。
でも…
「大丈夫かよ」
俺の目線の先には、ベンチに倒れ込むように座っている月島の姿。
だから、ご飯食べた後に乗り物に乗るなって忠告したのに……。
飲み物を買いに自販機まで行き、水を片手に小走りで月島の元まで戻れば…
「は?」
男2人に囲まれている月島が目に入る。
…誰?知り合い?
いやでも…そんな雰囲気は全く感じない。
何よりも今にも泣きだしそうな表情をしている月島を見て、手に持っていた水がアスファルトに落ちたと同時に走り出していた。
「そいつ俺のなんだけど」
グイッと月島を自分の方に引き寄せ、そのまま男たちから離れるように走った。
着いたのは乗り物もお店もない大きな木の下。
座り込んだ月島は、小刻みに震えだした。
ゆっくりと震えている手を包み込む。
「…もう大丈夫だから」
俺の言葉に小さく嗚咽を漏らしながら泣き出す月島。
その姿がいつも以上に小さく、儚く見えて思わず月島の体を抱きしめた。
もともと男が苦手なのに、男2人に絡まれた後で不謹慎かもしれないけど、どうしても抱きしめたくなった。
しばらくお互い無言の時間が続き、月島の嗚咽が聞こえなくなり体を離そうと思った瞬間、
「……好き」
小さな声が聞こえた。
その声の主が月島だというのは分かったけど…。
…好き?
この状況で何が?
…もしかして……俺が?
自分の言ったことが恥ずかしくなったのか、俺から離れようとする月島の体を後ろから抱きしめる。
「……嬉しかった」
もし、あの言葉が俺に向けてだとしたら…
きっと今までの俺だったらキモって思っていたかもしれない。
だけど、月島に言われた時、そんな感情微塵も出てこなかった。
最初は、どんな人がペアでも俺の足だけは引っ張んなよって気持ちだけだった。
俺の目的は、"セブンオーシャン"の社長になることで、それ以外なんてない。
…こいつに会うまでは…。
今思えば、最初からだったのかもしれない。
心にもないことを言って月島が今にも泣きだしそうな顔をした時…。
普段の俺だったら、女はすぐに泣いてめんどくさって思ったはず。
それくらい俺は最低な人間だ。
でも、月島の顔を見て、やばっと思った。
笑っている顔を見て、胸がザワザワした。
自分のことだけを考えていればいいのに、月島が嫌がることはしたくないと思った。
今思い返せば、俺とは思えない態度を月島には取ってたし、知らない感情を感じていた。
きっと最初から、俺にとって月島は大切な存在だった…。
出逢った時から……。
「…俺も、好きだ…」
気付けば口から言葉が出ていた。
「嘘じゃないよ。俺は…凛のことが好きなんだ」
嘘だという月島の耳元でそう言う。
今まで本人に対しては、『お前』呼びだったから、月島は顔を赤くして驚いている。
「この先、凛以上に好きになれる人なんていないから、俺と……結婚してくれる?」
自分でもびっくりするような声や言葉が出てくる。
結婚なんて、俺は絶対しないと思ってた。
だけど、出逢った。
結婚するなら月島…凛がいい……。
凛にとって俺の第一印象は最悪だったと思う。
俺は運命なんて信じてないし、ペアの人にどう思われててもいいと思った。
でも、可愛い笑顔や小さな体や声。
もっといろんな顔を知りたいと思った。
お金目的で入学した学校で俺は出逢った。
結婚したいと思える、運命の人に―――。
