「はぁ……はぁ…」

どれくらい走ったのか、気付けば周りに乗り物もお店もない大きな木の下にいた。

力が抜けその場に座り込む。

「…ごめん、具合大丈夫?」

「……うん、助けてくれてありがとう…」

そう言って見上げれば、八神くんは安心したような、だけどどこか心配そうな表情で私を見ていた。

……八神くんが助けてくれなかったら……。

急にそんな考えが頭をよぎって涙が溢れだしそうになる。


…私の力じゃ、どうすることも出来なかった。

恐怖で声を上げることも出来なくて……。


「……っ」

もう大丈夫なんだとホッとしたと同時に、涙が溢れないようにグッと唇を嚙み締めた。


「…震えてる……」

八神くんが私の手をギュッと包み込んだことで、体中が小刻みに震えていることに気付く。

「…もう大丈夫だから」

その言葉で涙腺が限界を迎え、ピンと張っていた糸が切れたように、涙が溢れだす。


「…うっ……。…怖かっ…た」

私を強引に引っ張って行こうとする手も、何かを企んでいるような口調も……怖かった。

……やっぱり男に人は苦手だと思った。


「助けるのが遅くなってごめん。……もう大丈夫だよ……」

今まで聞いたことのない優しい声。


包み込まれていた手が離れたかと思えば、ギュッと抱きしめられていた。

……温かい手……。

さっきの人の手とは比べ物にならないほどの安心する手。