世界一可愛い私、夫と娘に逃げられちゃった!

「喉乾いてたんだー」
「ねー」
 お代わりしたいと言うと、またトイレ行きたくなるよと言われたので諦めた。
 コンビニ出て、再び田んぼばっかの道を通る。
 車の中からオルゴールが流れてる。
 多分クラシックだと思う。幼稚園の時、友達がピアノで弾いてたからきいたことある。
 さっきまでラジオで天気やどこが混んでいるとか、今日のニュースだったのに。

 肩が重くなった。振り向くと、すいが寄りかかって寝てる。
 川口さんと話したい気分じゃない。
 僕が知ってる人じゃないもん。
 ゆいちゃんに買ってもらったゲーム機は、パパに没収されたし、退屈だ。
 いつになったら着くんだろうと思っているうちに僕も眠くなった。

 川口はルームミラーで、後部座席の子供たちの規則正しい寝息を一瞥し、口角を上げた。
 しばらくすると、通りから離れた所に入った。
 すぐに大きな平屋が見えた。そこの駐車場に車を停めた。
 玄関が開いている。
 車から降りると、ねずみ色のスウェット姿、スポーツ刈りのふくよかな男性がやってきた。
 男性は後部座席の窓を覗いて「金になりそうだな」と呟いた。
「そりゃ、稲本庄吾と長谷川ひかるの子だからな。祖父は議員の稲本勤、祖母はジュエリーショップ社長の稲本智子、あと親族に大塚朝典(おおつかとものり)だからな」