都会の歓楽街(かんらくがい)に多くの雑居ビルの中にそのお店はあった。
 夜の(とばり)が降り始めた時間がスタート。
 高級クラブ『カナリア』は、スーツ姿の男性達と、赤のマーメイドのようなロングドレスを着た女性――音海咲羽(おとみさわ)がテーブルで談笑していた。
「いやー、咲羽ちゃん、ホント40代に見えないなぁ!」
「そうですか? 室井さんもかっこいいじゃないですか。ステキですよ」
 男性はかっちり目のビジネススタイルのタイプで、少し白髪頭がまじっている理知的な男性。
 来店したときは無口だったのに、お酒が入ると饒舌になった。そういうタイプだ。
 これでも大企業の顧問らしい……というのはあやめママから聞いた話だ。
 
 音海咲羽こと呉松結花がカナリアに来たのは1年前。
 前職を体よく追い出され、ふらふらしてたところ、浅沼工場のからだいぶ離れたクラブ『れんげ』の”はすみママ”に保護された。
 ママに結花の身の上と容姿の良さや性格で、この仕事が向いてるんじゃないかと勧められて、しばらく働いていた。
 元々男性とおしゃべりやスキンシップが好きな結花にとって向いていたこと、男心をくすぐるのが上手いことから、だんだん常連客からの紹介が増えた。
 半年後、ここじゃもったいないとママの紹介で今に至る。