中に会社の研修で配られた資料や入社時の手続きの書類、そして社内の男性スタッフ達の見た目や家についてメモしたノート、タブレットPCや筆記用具もない。
「な、なによ。これ?!」
 立ち上がって、ヒステリックな声を上げてアピールするが、周りは無視を決め込んでいる。
 なんでよと郡山や琴平に繰り返すように聞くが「分からないです」と淡々と答えた。
 
結花にうんざりした吉岡が
「呉松さん、少し声落としてくれますか?」となだめた。
「こんなの社内いじめよ! みんななんでゆいちゃんがこんなのになっても、無視するの? ホントは知ってるんでしょ? ねぇ?」
 さらに大きな声でアピールするが、同僚達は耳をふさいだり、他人のフリに徹している。
「あんたは知ってるんでしょ? この間までちゃんとゆいちゃんのものはあったのに! 隠してるんでしょ?!」
 吉岡に詰め寄るが視線を逸らされる。

 本当は事情を知っている。上から箝口令(かんこうれい)敷かれているし、答えたら答えたで、さらに大きい声で喚くだろう。
 本当に40代とは思えない幼いしゃべり方と声。
 いちいち甲高いから頭痛がする。
 今真剣で、自分の立場が危ういのに、この期に及んで名前で呼んでるって……余計答えたくない。