依田陽鞠(よだひまり)は友人の磯ケ谷紗来(いそがやさき)から、宿題見せるように言われてため息をついた。
 吐く息が白い。強風吹きすさぶまではいかないが、風が地味に強い。
 女子は年がら年中スカートで、白の短い靴下と白のスニーカーで紺色の上下制服という、なんとも微妙な組み合わせの服装である。
 教室はストーブがあるものの、休み時間はつけてはいけないし、換気しないといけない。昼休みも含む。
 陽鞠の席は今月席替えで廊下に一番近い最前列になった。
 しかも隣は苦手な男子だ。
 早く来月にならないかなと陽鞠は毎日思っている。
 とはいっても次は年明けだ。
「終わったよー」とすぐに紗来から返ってきた。
 今日提出する数学のプリントだ。
 数学の赤澤(あかざわ)は締め切りに厳しいし、授業態度も細かくチェックする。
 だから数学の授業中はみんな問題を解くのと板書する音しか聞こえない。
 そもそも(はる)(だい)中学校で授業中におしゃべりはおろか、先生に反発したり、なめた態度をとる生徒はいない。
 近隣では西南(せいなん)中学校、春の台中学校、神山(かみやま)中学校と試験が難しいことで有名である。
 塾の講師達は毎回学校の先生と競うかのように、試験予想問題なるものを作っては万全な体制を整えている。的中率はそこそこある。
「ねぇー、ひーちゃんの保護者面談いつー?」