「あー、ふみちゃーん、おっひさー。ゆいちゃんだよぉー」
 舌っ足らずなしゃべり口調で挨拶をするが、文登はまるで嫌な物を見たかのように、目線をそらす。
 望海に「なんでこの人が来てるんだ」としかめっ面で耳打ちする。
 結花が来た理由を話して、拓登は渋々だが玄関までならいてもいいと承諾した。
「ねぇ、ふみちゃーん、ゆいちゃん家追い出されて喉渇いてるのぉー。のどかわいたのぉー」
 文登の喉は唾が飲み込めず、口元を覆った。

 結婚式で散々私のこと目の前で悪く言ったこと覚えてないのか?
 友達から彼女にしつこく連絡先聞かれたってクレーム来たんだよ。

 結婚後も妻と彼女は従姉妹同士の付き合いだし、一応親族だからと俺も集まりに顔だしていた。
 毎回妻の目の前で、自分の実家や家族に対して馬鹿にされるのが嫌だ。

 私の家は都会の片隅で、両親は実家で小さな塾を経営している。今は代替わりして兄が継いで、両親は裏方として働いている。
 彼女はそれをガリ勉一家とか、面白みのなさそうな人とか、そんな小さい塾すぐ潰れるっしょと嘲笑していた。
 都会での塾の生徒を集める競争率は激しいし、大きい会社がやってるところに安心感や受験の実績でみんな行ってしまう。