「えー、いいじゃん! ちょっとぐらーい!」
 じたばたと暴れる結花に望海はスマホで電話をかけた――結花の兄である良輔に。
 良輔からは今すぐ向かうと返事が来て、30分後に着くと。それまで悪いが中で待たせてほしいと。
「仕方ないわ。ちょっとだけね」
 ゆっくり門を開けて結花を中に入れさせる。
「やったー! やっぱりゆいちゃんの言うことには逆らえないもんねぇ」
 結花は望海の肩をパンパン叩いてるが、特にリアクションもせず、どうぞと玄関に案内した。
 
 ゆいちゃんの言うこと云々じゃなくて、ここで騒がれて近所でもめたら面倒くさいし、あなたのお兄さんが言ったからに過ぎないのに。
 なんでこの人は自分の言うことが何でも通るって思ってるんだろう。
 少しでも不利になれば泣いて訴えたり、お母さん呼んで泣き寝入りさせてたもんね。
 未だに家の名前やぶりっ子で周りがはいはい言うこと聞いてくれると思ってるのかな。
 40代もなれば見る目はシビアになるのに。
 自覚しない方がある意味彼女にとって幸せなのかもしれない。