7月に入った。
 初夏の風が離れに吹いてくる。
 スマホを片手に誰も気付かれないように外に出る。
 時間は17時過ぎ。久しぶりのメイクアップに心躍る。
 いつもは動きやすい格好にしていて、ノーメイクが多かった。もう服装でとやかく言われる必要がなくなった。

 ――依田さん、7月でここじゃなくて夏風町《なつかぜちょう》店に行って貰うから。

 端的に言うと異動を言い渡された。
 教育係だった尾澤は、4月の終わりに元の勤務先に戻り、結花は落ち込んでいた。
 店長の野崎から厳しく言われる日々だ。
 5月に悠真は社長を退任、陽貴も退職をして、末弟の隆太だけ残る形になった。
 後任の社長は尾澤、人事部長は野崎になった。
 7月で正式に就任になる。 
 隆太は西南中央店《せいなんちゅうおうてん》の店長だが、会社内の発言力は、悠真と陽貴に比べて弱い。結花と日常的に関わりがない。むしろ避けている。
 親戚の集まりの度に、悠真のいないとこで抱きつかれたり、ベタベタ触られたり、彼の妻の悪口を言われる。
 悠真に相談した上で止まる訳でもないので、陽貴だけ話していた。
 今回悠真と結花が離婚騒ぎになっているのは知っているので、これ幸いとして悠真にぶちまけた。