「うーん、出てる。今日も後輩が1人休んでた。風邪ひいて。その前から寒がってたんだけどね」
「あの学校の吹奏楽部に改善なんか求めても無駄だよ。顧問は長年の伝統を理由に逃げ腰だよ。保護者が毎年改善してくれと言ってるけど、ダメだ。あそこは卒業生がちょいちょい顔だすからな、そいつらが圧力かけてんだよ」
 春の台中学校吹奏楽部のために、頻繁に顔を出す卒業生達。その中に子供たちや家族が入ってることから、2代に渡って関わってる人も少なくない。楽器やお金の寄付に一番力入れている部活だ。それは、やはり学校の看板というのが大きい。
「あのね、今日もちかにやられたの。このあざは。かばんがボロボロなのは、円堂《えんどう》先輩がやったの」
 依田兄弟は顔を見合わせて目を丸くする。
「先輩って、3年は引退じゃないのか?」
「表向きは引退だけど、先輩達はなんだかんだいって顔出してくる。円堂先輩は、私のことあんまり好きじゃないみたいだし。1年の時からきつくいわれてたの。最近はちかと一緒に嫌がらせしてる」
 ぽつぽつ話す嫌がらせの内容。
 部長の浅沼智景から言葉による嫌がらせを受けているのは知っていた。まさか、手を出すまでいってたとは。顧問や彼女の担任や父親にやめてもらうようにお願いしたのに。
 円堂先輩って誰だ?