――こんな状況でよく病院いけるね。さすが、あの母親の子だからね。バチが当たったんじゃない?

 部長の浅沼智景(あさぬまちかげ)だ。3年生が引退する時に満場一致で彼女に選ばれた。トロンボーン担当で、父親がやっていた影響なのか、腕は結構なものである。それに期末や中間試験の成績も上位をキープしている。
入った当初はそこまでではないが、部長に選出されてから、智景は陽鞠に対してきつい口調で話してくるようになった。
 クラスは違うとはいえ、廊下ですれ違ってもにらみつけるような態度を取ってくるので、陽鞠にとって苦手なタイプだ。
 智景の態度は好き嫌い分かれる。腕はいいということもあり、出来ない人に対してかなりきついし、マウントを取ってくる。
 夏の合宿の時には、1年生の子が集合時間でもたついてしまい『もたつくぐらいなら辞めてくれ』からの、人格否定が始まった。
 前部長の保坂も顧問の森河(もりかわ)も当然といわんばかりに、とめなかった。
 春の台中学校の吹奏楽部は、毎年きつい性格の人が部長に選出される。これが何十年も続いている。だから陰湿な嫌がらせは日常茶飯事、暗黙のルールに従えなかったら処罰される。その部長の機嫌次第で決まる。