「…ギブ様、アナタはあの部屋を訪れた全員のところへ降りていくの?」

『そうしたい…。でも、実体がないから、オレはもう。だから、ノゾミさんのように自分を迎え入れる回路を開いてくれた人には感謝してる』

やがてノゾミは体をカレの正面に向き変え、そして強く抱きついた。
強く…、それこそ、自分の体にカレをめり込ませんばかりに…。

同化したい…。
言わば、そんな思いがノゾミにはあったのかもしれない。

『オレはあの病に冒されて、死期を近いと悟っていたから…。だから、あの心を洗われるような海の一望できる家を借りて、カウントダウンの間を誰かと触れ合っていながら過ごしたかったんだよ。海は好きだったけど、首都直下か南海トラフの巨大地震なら、あんなに海近けりゃ、間違いなく津波に呑み込まれる。怖かったんだ。病気でこの世を去ることを覚悟していても…』

「ギブ様…」

『…あの家に訪れてくれたキミたちと24時間一緒に過ごしたのは、そんな時、一人じゃ怖かったから…。そういう打算もあったんだよ。”そこんとこ”を告げなくちゃって思いもあって、現世を去ったあと、こうして巡ってるんだ。感謝してると伝えるために…。ありがとう、ノゾミさん』

ノゾミは涙が止まらなかった。
癒され、何かを諭され、勇気をもらった。

ほんとに短い時間の共有だったに過ぎないのに…。

自宅以外のトイレの中という、俗にまみれた再会場所でもあっても、ノゾミにとって、カレとの再びな珠玉の時間は永遠の美しき記憶となった。