”ただ今、○○号はゲートに格納されました。速やかに退船してください…”
アリの最後まで一本調子によるラストインフォメーションがノゾミの両耳に届いたあと、ヘッドフォンからはトラベラー終了のアナウンスが流れ、彼女はマシンから降りたのだが…。

”わあ、目が回って足がふらついてる…。気分もちょっと悪いし…”

ノゾミは実際、夢遊トランス状態に陥っていた。
それこそ感覚的には、彼女がイメージしていた貧血で”落ちる”前後のトリップ感とほぼ同じであった。

要するに、ノゾミの望んだセルフトリップに自分を持っていけたのである。

ノゾミはふらつきながら、店舗入り口付近のトイレに入ったのだが、目まいがひどく、一番手前の個室に駆け込むと、大便器の前でしゃがみこんでしまった。

「はあ、はあ…、ちょっとのめりこみ過ぎたかも。吐き気がするわ…」

”オエーッ…。ゲーッ…”

思わず便器に顔を突っ込みんだノゾミはのどに指を入れて、無理やり嘔吐した。
口からはほぼ胃液のみしか出てこず、3度ほどオエーをしたが、かえって目まいがひどくなり、ノゾミの額からは脂汗が湧き出て顔面は真っ青だ。
彼女は生唾を繰り返しゴクリゴクリと呑みこみ、その間、ハアハアと肩で息をつき、便器前にしゃがみ込んだまま動けなかった。