教室につき、自分の席に向かう。カバンから教科書などを取り出し、机の中に放り込む。


それからだいたいの用意はできて、教室をぐるっと見渡してみる。もうすでに仲良くしている子たちのグループもできかかっ
いる。この波に遅れないように私も友達をつくらなきゃな。でも、ここにいる全員ライバルになる。もちろん、愛奈とも。なんだか寂しい気持ちになるけれどそこは仕方がない。誰かに声をかけようと思い、席を立つ。


そのとき、ドアの方から少し声が上がった。女の子たちの声みたい。気になって振り返ると、いつも通りの、だるそうで眠そうな顔をした純が、面倒くさそうに教室に入ってきていた。


どういうこと・・・?これは何に向けられたどういう声?わけがわからずつったっていると後ろから愛奈が顔を出してこそっと話しかけてきた。


「おはよう、優利。ねぇねぇ、見てよ、あの子さぁ、すっごいイケメンじゃない?だるそうなとこもいいよねぇー。こんなこと、ペアじゃない男子に言ったらダメな学校だけどさぁ」


そう言って愛奈が指差す方向を見る。指が差しているのは純だった。


・・・・・忘れてた。見慣れすぎたのと性格が暗すぎるのを知りすぎていたからかもしれないけれど。純は実は世に言う〝イケメン〟なんだった。私には全くそうは見えないけれど、たしかにじっくり見ると綺麗な顔立ちだ。


「あ、愛奈おはよー。あの男子、実は私のペアなんだよね。幼馴染だからすごいイケメンとはあんまり思えないんだけどね」


「えっ!優利あの子とペアなのー!?いいなぁ、私のペアほんと性格悪い!あの子なんていう子ー?」


愛奈は羨ましそうに目を輝かせて聞いてきた。


「中西純だよ。見た目通り暗い隠キャ。顔が整っているのはわかるんだけどね」


「へぇ、純くん。仲良くなりたいなぁ。そうそう、ついでに私のペアは山口翔っていうんだけどー、なんか嫌なヤツ。あんまり関わらないほうがいいと思う。あ、こんな言ったことは翔に内緒にしててね。口止めされてるの」


「なにそれー。なんで?山口くん、ってどういう子なの?嫌なヤツって・・・ちょっとひどくない?てか、口止めされてるなら言わないほうが良くない?」


私も純のことはけっこう言うけどね。


「いやいやーだってーほんとなんだもんー」


言い訳をするように愛奈が言う。少しほおを膨らませていてとてもかわいい。


愛奈と話していると、また教室のドアが開く音がする。そして、純の時よりも周りがざわついている。


「わぁ、きたよ、山口くん」「すごい、噂どおりだなぁ」


どこからかそんな声が聞こえてくる。


山口くん?愛奈のペアも山口くんだったよね・・?ありがちな名字だし、違う人か。


「はぁ、まーた猫かぶってるー。ほら、優利。あれがペアの翔だよ」


そんなことを考えていると隣からため息と一緒に愛奈の声がする。


意味を理解して、混乱してくる。愛奈、嫌な人って言わなかったっけ?めっちゃ騒がれてるんだけど・・・。多分、いや絶対、いい意味で。


「や・・山口くん?あの人が嫌な人なの?すごく・・・人気みたいだけど。顔も、かっこいいんじゃない?なにが嫌なの?」


すごくいい人そうに見える。騒がれていても嫌な顔一つせず爽やか笑顔を保っているし。すごいなー。でも、愛奈は嫌な人って言っていたけれど・・・。


「実はね、翔って面倒くさがりなんだよ、今は本性隠してるのー。結構やばいよねー」


うそ!見えない!へぇ・・・、そうだったんだ・・・。なんか悲しい・・・。反応に困って「そう、だったんだ・・・」と苦笑する。


「でも、実は優しいとこもあるから困っちゃうんだよね・・・」


小さい声でつぶやかれた言葉は私の耳に届くことなくクラスのざわめきに消えてしまった。


「あっ、とっとにかく優利、ぜーったい言わないでね!」


慌てた様子で早口で言った後、小声で念を押すように


「やばい、こんなこと話してたのバレたら、私、どんなことになるかわかんない。ほんと、言わないでよ、優利」

と言った。どこか違和感を覚えながらも、私は小さくうなずいた。