何だか少し気分が落ち込んだまま、入学式も終わり、部屋に帰ってきた。


お腹空いたなぁ・・・・。食堂に行ってみよう。ついでに寮の探検もしてみようかな。


「純ー私ちょっと食堂と寮探検に行ってくるねー」


「ん」


ん、って・・相変わらず冷めた返事だな・・・・。ちょっと久しぶりだけど小さい時からちっとも変わっていない。でも、なぜだか少し安心する自分もいた。


部屋を出て食堂に行く。うーん、食堂で何食べよう。カレーかな、ラーメンかな、激辛系ももいいな。あるかなー、あるといいな。


食堂について、激辛と書いてあったメニューをたのむ。


「はい、激辛丼ね」


「ありがとうございます‼︎」


美味しそう。


「いただきまーす」


辛ーっ口に入れた瞬間辛味、辛味、辛味。これ、ほんとに辛い。いっきに水をコップ一杯分ぐびっと飲み干す。


なんとか食べ終わって、部屋に向かう。


角を曲がろうとすると誰かにぶつかった。


「痛たた…ごめんなさい…」


「いったー。ごめんねぇー、前見てなくって」


ぶつかったのはたぶん1年生の女の子。すごいふわってしてる感じ・・・。


「ごめんねー私、岡田愛奈ー1年生でーす、君も1年生だよね?」


すごい可愛い子だな。


「あ、うん、私も1年生だよっ永瀬優利ですっ」


「へぇー優利ちゃん、よろしくねっ」


「優利でいいよー私も愛奈って呼んでいい?」


「オッケーオッケー‼︎よろしく優利っ」


「うんっじゃあ、私部屋こっちなの。またね。愛奈っ」


「バイバーイ」




部屋に帰ってきて、改めて荷ほどきをする。食堂に行く前にだいたい終わらせておいたので、あっという間に終わった。


純はたぶんもう帰ってきている。食堂で食べたのかな、会わなかったな。


「ちょっと飲み物買いに自販機探してくるね。なんか欲しいものあるー?」


上にいるであろう純に少し大きな声を出して呼びかけてみる。すると上から純の声が返ってくる。


「んーっとじゃあコーラ買って来て。お金はちょっと後にさせて」


「おっけー」


飲み物を買うために自販機を探す。


少し行くとすぐに自販機はみつかった。意外とすぐにみつかってよかった。


私は・・・・オレンジジュースにしよう。美味しいんだよね。このオレンジジュース。


コーラとオレンジジュースのボタンを押す。ジュースががこんと音を立てて落ちてくる。炭酸ジュースを買った時はいつも、開けた時にブシャーって出てきたらどうしようと、少し不安になる。でも、1度純に話すと呆れられてしまった。


部屋に帰ってコーラを純に渡す。


「ん、ありがと」


純はコーラを受け取り、代わりにあいていた左手をぐっと差し出してきた。ああ、なるほどね。私も手を差し出す。浅くうなずいた。純はぴったり100円を渡してきた。こういうとこ律儀なんだよね。でも、言ってくれたらいいのに。


「ありがとね」


まあ、言っても直してくれないのは目に見えているから言わないけど。直してくれないかな、こういう暗すぎるところ。


「じゃあ、私は上行っとくね。純はどうする?」


「・・・・俺も上行く」


少し間が開いて、返事が返ってきた。


「わかった、じゃあね」


純がうなずいたのを確認して、上へ行く。


「はあ…疲れた」


今日はなんだか疲れていたので、だいぶ早いけど布団を用意する。目覚ましをセットして、布団に入る。


・・・寝る用意はしてみたけれど、やっぱりすぐに寝る気にはなれなくて、パートナー、純とのこれからについて考えてみる。


私は、〝金の卵の夫婦〟に憧れて入学した。そして、今も本気で〝金の卵の夫婦〟になりたいとも思っている。


じゃあ、純は?・・・純の入学理由はたぶん(自分から認めてしまうのは悔しいけど)やっぱり頭が良くて機械系が好きな純のことだから、社長になりたかったからだろう。そして、パートナーや、社長になるための試験として行われるゲームのことなんて何ひとつ考えていなかったんだと思う。全部、どうでもよかったんだろうな・・・・。


でも、私とパートナーだと、話は別だと思う。私だって、〝金の卵の夫婦〟になるためには、当たり前だけどある程度どんなパートナーでも頑張っていこうと思っていた。だけど、純は別。なんか、長年の付き合いすぎて、今更こんなことできない。きっとこれは純も同じ。


でも、根本的な理由は違ったって目指すべきものは同じ〝金の卵の夫婦〟だ。だから結婚科にいないと、〝金の卵の夫婦〟にはなれない。


つまり、2人がしっかりと〝金の卵の夫婦〟になるためには、説明会で校長先生が言っていた、〝パートナーのトレード〟をするしかないみたいだ。


だけど、せっかくトレードをするなら、お互いにちゃんと恋愛出来て〝金の卵の夫婦〟になれるパートナーとトレードしないと意味がないよね・・・。そのためにはクラスとか学年の中で色々な人と仲良くなって、トレードするパートナーを選ばないといけないってことだ。じゃあ、どうにしろ少しの期間は純とパートナーのままで過ごさないといけない。


なんか、あんな言い方したけど、純と他の人がパートナーって考えると少しモヤっとする・・・。いやいや、そんなことない。

それに、こんなことで自分も悩みたくないし、純を悩ませるのもよくない。


ああ、もう『でも』とか『だけど』とかばかりでまったく考えなんてまとまらない。今日は考えるのもやめよう。頭がパンクしそう。いつもよりだいぶ早いけど寝よう。


色々考えていると眠くなってきて、重たかったまぶたは、すぐに閉じてくれた。