久しぶりに春樹君に留衣と呼ばれて、心臓が強く鼓動した。

 やっぱり、春樹君のことがまだ好きだって思って……。
 
 でも、まだ春樹君の顔をちゃんと見るには時間が必要で、逃げてしまった。

「そうだ、お化け屋敷にでも行く?」

 蒼はわざと怖い顔をして、わたしを見る。

「変な顔」

 ふふっと笑うと「怖いだろ?」と、蒼は「俺もお化け役できるな」と、誇らしげな顔をした。

「でも蒼、暗いところ大丈夫なの?」

「少しくらいなら平気。それにお化け屋敷行けば、気分転換にもなるだろ?」

「蒼……ありがとう」

 最近の蒼は、以前のような分かりにくい優しさじゃなくて、分かりやすい優しさを示してくれる。

 登校のときだって、少し先に春樹君の姿が見えた途端コンビニに寄りたいなんて、わたしのためだって言うことはすぐに分かった。

 今だってそう。

 名前を呼ばれて動揺しているわたしの気分を少しでも晴らそうとしてくれて、苦手なお化け屋敷に一緒にはいってくれようとしている。

「じゃあ、お化け屋敷行こっか」

「おう、怖かったら俺にしがみついていいからな」

 お化け屋敷は同じ学年のクラスがやっていて、自分たちの教室の隣の隣の教室が会場だった。

 着くと、中から女子生徒のきゃーっという叫び声が聞こえてくる。

「な、なんか本格的、なのかな?」

「いやいや、所詮生徒が作ったものだし」

 と余裕を見せていた蒼は、順番になり中にはいるとすぐにわたしの手を握ってきた。

 のくせに、「よし、ついてこいよ」なんて男気を示してくる。

 少しずつ前に進んで、角を曲がろうとしたとき、向こう側から赤い血のついた白い着物を着ている人が近付いてきて、思わず蒼に抱きついた。

 蒼の身体は、幼い頃に比べてすごく男っぽくなっていた。

「び、びっくりしたね」

 2つの意味で、心臓がどくどくと動いている。

「ちょ、ちょっとな?」

 と言う蒼の手は、さっきよりも強く握られている。