「まあ、大野君に今さら勝てるかわからないけど……。でも、このまま諦めたくない、って矢崎さんに言っても仕方ないけど」

 ちゃんとこの言葉を留衣に伝えたい。

「大野、本気だよ? 本気で留衣のこと、好きだよ?」

「分かってる。でも、僕だって本気だよ。それに、少しの間だけだけど留衣いて、子どもの頃よりももっと好きになった。今すぐになにかをできるわけじゃないけど、でも、もう少し留衣が落ち着いたら、話すつもりだから」

 そっか、と矢崎さんは少しだけ笑う。

「留衣には、黙っててもらえないかな?」

「うん、分かった。あ、留衣だ」

 外を見ると、確かに留衣がいた。その隣にはさっきと同じように大野君もいる。こうして見ると2人は本当にお似合いで、誰かがその隙間にはいるなんて無理なようにも思える。

「2人ってさ、どれくらい仲良いの?」

「うーん、まあ、かなり仲良いかな? なんていうか、昔男の子に意地悪されてたのを助けたのが大野みたいで。それから仲良いんだって」

 まるで大野君は留衣にとってのヒーロー的存在ということか。その過去を聞いてしまうと、どうやったって自分に勝ち目がないと思わずにはいられない。

 留衣の手が大野君の腕を掴む。

 大野君は平気な顔をしてるけど、口元が明らかに緩んでいるし、さっきよりも顔が赤い。

「まー、あの2人お似合いだよね。神山君にこんなこと言うのはあれだけど」

 矢崎さんは、ごめんね、と僕を見る。

「確かに……。あと、僕のことは春樹君としか呼ばなかったけど、大野君のことは、蒼って呼ぶよね。呼び捨て、羨ましいって思ってたんだ」

 たった名前一つからでも、大野君との差を感じてしまう。

「神山君って、意外と乙女?」

「お、乙女?」

「神山君くらいかっこいい人でも、そういうの気にするんだって」

「そんなにかっこいいわけじゃ。それに留衣のことになると、どうしても弱くなる。自信がなくなっちゃうんだよ」