10時になり体育館裏に行くと、るいさんが1人立っていた。

「ごめん、遅くなって」

 彼女は耳に髪をかける。

「ううん、全然」

「話って?」

「あの、はじめて話しかけてくれたとき、冷たい態度取ってごめんなさい」

 彼女はいきおいよく腰を曲げた。

「あ、いや。懐かしいって思って。でも今元気そうでよかった。あのときは、元気なかったから」

 確かに、少しだけその冷たさに驚いたのは事実だったけれど、子どもの頃以来なのだから仕方がないのも理解していた。

「あのときは春樹君に救われて。この前はあんなこと言ったけど、また仲良くしてもらえないかな?」

「ごめん、今は、できない」

「なんで……?」

 目に涙を溜めているるいさんの顔から目を逸らして、足元に目を向けた。

「留衣とちゃんと話できるまで、他の女子とは」

 留衣に、勘違いなんてされたくない。

「こんなこと言うのあれかもしれないけど、勘違い、してない? 留衣さんとわたしのこと」

 まさに今自分が思っていた言葉に、目を見開いてしまう。

「勘違い?」

「同じ名前だから」

「いや、それはないよ。僕は昔から留衣のことが好きで、だけど幼い頃から留衣の隣には大野君がいて……。いや、とにかく、ごめん」

 そっか、と力なく声を出するいさんは、ごめんね、なんか勘違いしてたみたい、と僕の前から姿を消す。
 
 勘違い……。でも確かに、同じ名前の人がいたらそんな風に思うかもしれない。

 でも僕は、間違いなく留衣が好きなんだ。

 体育館から校舎に戻り、適当にうろついていると大野君と2人で歩いている留衣の姿が目にはいってきた。