やっぱり大野君には勝てないのか。

 体育祭の借り物競争で、留衣が大野君の腕を引っ張ってゴールへ走って行ってしまったとき、そう感じずにはいられなかった。

 二人がまるで恋人のように僕の目には映ったんだ。

 そして委員の人が【大切な異性】という言葉を耳にしたとき、全身が無数の針で刺されたような気がした。

 留衣は僕のことを好きじゃない、直接的な言葉じゃなくても全身全霊で留衣がそう言っているような気がした。

 留衣から返されたイルカのキーホルダーを握る。イルカは僕の感情とは反対にきらきらと光っている。

 返されたあの日から、もしかしたら「ごめん、あれは嘘だよ」って笑って戻ってきてくるんじゃないかと思って、常に持ち歩いていた。

 けれど、願っても留衣は戻ってこない。

 電車の中、隣の車両に留衣と大野君と矢崎さんの姿が見える。

 3人とも笑っていて、彼らの構築された世界を羨ましく思う。僕もその世界にはいられたら、と願ってしまう。

 3人が降りた駅で、僕は降りることができなかった。

 一駅先まで乗って、そこで降り歩いて帰宅した。

 夕日が街を染めていて、か弱く鳴く鳥の声が耳にはいってくる。まるで今の僕のようだ、とふっと息が漏れてきた。

 スマホを出して留衣の連絡先を表示させ、しかし結局なにもできずにポケットにしまった。

 文化祭2日目。

 留衣になんとか話しかけたいと思うも、隣には必ず大野君か矢崎さんがいる。

 留衣と一瞬目が合うも、すぐに逸らされてしまう。近付こうとすると、留衣は決まって反対方向へと歩いていってしまう。

 そのとき、メッセージが送られてきて見てみると『今日、一緒に回りませんか』と、るいさんからだった。

『ごめん、それはちょっと』と返すと、『話したいことが、あるんです』とすぐにメッセージが返ってきた。

『分かった。じゃあ、体育館裏でいいかな? 10時くらいに』

『うん、待ってます』