好きになっちゃ、だめでしたか?

 球技大会はなにごともなく終わり、文化祭当日になった。

 文化祭開始から1時間を過ぎた頃、3人で例の場所に向かって移動しはじめた。

 いつもの勉強勉強、の堅苦しい空気から一変、今の学校内は生徒たちの活気ある声で埋め尽くされている。

 隣にいる留衣も、周囲に神山がいないせいかどんよりしていない。

 廊下を歩いていると、遠くの方に看板が見えてきた。

「おー、あそこだね」

 矢崎はにやにやしながら俺の顔を見る。

「な、なんだよ?」

「なんでもー?」

 扉の前に着くと、紙に大きな文字で【2人1組】と書いてある。

「どうしようか?」

 留衣は俺たちの顔を見て首を傾げる。

 矢崎は「わたしは1人で大丈夫だから、留衣、大野を面倒見てやって?」と、分かりやすすぎるくらい分かりやすく俺と留衣を2人きりにさせようとしている。

 そのとき、電話が鳴って見てみるとどうやら妹が高校に着いたようだった。

「妹来たわ。しかも迎えに来いって」

「ええ、じゃあお化け屋敷はまた今度だね」

 矢崎はつまらなさそうに唇を尖らせている。
 
「ごめん、てことで、留衣のこと頼む」

「分かった。じゃあね」

 まさか、2人の前で妹を神山のところに連れていくわけにもいかないだろう。

 途中、スマホで神山の担当時間を確認すると、ちょうど今受付の担当をしている。

 門に行くと、いつもよりもピンク色多めの服を着た妹が立っていた。

「遅い」

 妹は俺を見るなり「もーっ」と眉を顰めた。

「いや、これでも急いできたんだけど」

「それで、留衣さんがフった人は?」

「今ちょうど俺らのクラスの受付してる」
 
 妹を連れて、ソースやら甘いなにかの匂いが充満しているエリアを抜け人気の少ない中庭に来た。

 神山は数少ない客に向かって笑顔を振り撒いている。

 神山と話している女子たちは分かりやすく頰を上げている。

「まさか、あの人? え、あの人? あの、立ってる人?」

 妹は、目を見開いて俺を見た。

「まあ、あの人」

「ええ、勝ち目ないね、あの人が敵じゃあ」

 いや、敵じゃないから、と言おうとしたが、どうしてもあのときの神山の顔が忘れられず、あいつは本当に留衣のことが好きなんじゃないかという考えが離れない。