次の日の朝留衣の家の前に来ると、いつもはいない矢崎の姿があった。

「もしかして、聞いた?」

「うん、別れる、とは言ってたけど、まさか昨日だとは」

 矢崎は胸の前で腕を組んでいる。

「まあ、な」

「ていうか、別にわたしが連れてくからいいのに」

「いや、俺だって、心配だし」

 と言う俺の顔を、矢崎は口元を緩ませながら見てくる。

「もしかして、もしかする?」

「はいはい、認めるって。矢崎の思う通りです」

「ふうん、やっと自覚したんだ」

 なにも言えず、矢崎から視線を逸らして誰かの家の花に目を遣る。

 ちょうどいい暖かさの風に揺らされて、なんとも気持ちよさそうに揺れていた。

「まあ、こんなこと言うと応援してるように聞こえるかもだけど、わたしは、大野みたいな人が恋人になってくれればいいと思う。だって、大好きでしょ? 誰かと間違ったりしないでしょ?」

「当たり前じゃん。何年一緒にいると思ってんだよ。今さら、ほかのやつ好きになれるかよ」

 と自分で言っておいて、顔に血が上るのを感じる。

 矢崎を見ると、わざとらしく口元に手を当てて目を丸くしている。

「めっちゃ好きじゃん」

「は、はあ? やめろしそういうの」

 自覚してしまった気持ちで、俺は普段通り留衣と接することができるのだろうか。

 と思っていた矢先、留衣が目の前に現れた。心臓がうるさちほどに鳴る。

 それにしても、やっぱり昨日の朝と比べて纏っている空気に元気がない。

「あれ、蒼まで来てくれたんだ?」

「ま、まあ、隣だし?」

「ありがとう、気遣ってくれて。やっぱり優しいね、蒼は」

 と、力なく微笑む留衣を今すぐ抱きしめたくなる。