体育祭を終えて家に帰ってシャワーも浴びずにベッドに横になった途端「俺、留衣のこと好きだから。あいつのこと傷付けるやつは許せない」と言ったあのときのことを思い出してしまう。

「ああ、ちょっと待て、え、っと、待ってよ、うわああ!!!!」

 きっと今鏡を見たら耳まで真っ赤に違いない。

「うるさいっ」
 
 妹が思い切り扉を開けて部屋にはいってくる。反射的に耳を隠す。

「なによ、うわああ!!!! って。ゴキブリでもでたわけ」

「ちげえよ。ゴキブリ出たくらいでそんなに叫ぶわけねえじゃん」

「じゃあ、なによ。ていうか、なんで耳押さえてるわけ?」

「た、たまたまだよ」

 この前、妹には留衣を好きになるなんてありえない、的なことを言ったばかりだった。

 なのに、数か月もしないうちにやっぱり好きだったなんて、どうして言えるだろうか、しかも我が妹に。

 鼓動がおさまってきたので、耳から手を離す。その間、妹の視線が肌に突き刺さる。

「あ、分かった」

 妹はいかにもすべてを察したと言いたげな表情をして近付いてきた。

「気付いちゃったんだ? 自分の気持ちに」

 妹の口元はにやにやしていて、この状況を楽しんでいるように見えた。

「は、はあ?? なんだよ、自分の気持ちって」

 こんな抵抗意味がないと分かっていながらも、しかし素直に認めることはプライドが許さない。

「留衣さんへの気持ち。好きって気付いちゃったんでしょ? それで、うわああああああとか言ってんじゃないの?」

 妹は腕を組み、俺のことを見下ろしている。

 目を逸らしたら負けだ、と思うのに、妹の圧に耐えきれそうにない。

「つうか、気付いたって? 昔から好きだったみたいな」

「いや、だって、昔から好きじゃん?」

 妹は当たり前のようにその台詞を放った。