好きになっちゃ、だめでしたか?

 午前中の競技が終わると、一旦解散になった。

「お昼どこで食べる?」

 一華に聞かれ

「せっかくだから、外で食べない?」

 と、とりあえず購買にお弁当買いに行った。

 外に戻ってくると、他にも外でお弁当を食べてる人は結構いて、わたしたちも椅子に座っていただきますをしようとした。

「留衣」

 わたしを呼んだのは春樹君だった。一華を見ると、なにも言わずに眉をくっと上げる。

「今ちょっといい?」

 一華が背中を軽く叩いてくる。もう一度一華を見ると、無言で頷く。

「うん、分かった」とお弁当を置いて春樹君の隣に行く。

 るいさんと話したことでやっぱり気持ちが抑えきれなくなってしまったのかもしれない。

 だから、これ以上はわたしといるのが無理だと悟って。

 春樹君は人気のないところに歩いていく。体育館裏は、別れを切り出すには相応しい場所だった。

「さっきの、借り物競争だけだど」

 けれど、春樹君の口からでてきた言葉は予想していないものだった。

「借り物、競争?」

「留衣のお題って、カップル向けのもの、だったでしょ? なんで、大野君をつれてったの? 僕じゃ、なくて」

 春樹君は傷付いたような顔をしていて、笑っているのに悲しんでいる。

「それは……」

「やっぱり、僕より大野君の方が、大切?」

「蒼は、幼い頃からの友達で。それに、昔落ち込んでたときに声かけてくれたのが蒼で」

 それは嘘じゃない。

「留衣は、じゃあ、大野君が好きなの?」

 春樹君はやっぱり無理して笑っているように見える。
 
「そ、それは違う。ただ、幼馴染として好きだってだけで」

「僕はやっぱり大野君には勝てないの?」

「違う、違うけど。でも、わたし、春樹君といるの辛いんだよ。すごく、辛いんだよ。春樹君だって、どうして本当のこと言ってくれないの? 誰も幸せじゃない。今のままなんて」

「なんのこと? 留衣、なんの話してるの? ていうか、僕といると……辛いの?」

 春樹君が震える手で手首を握ってくる。けれどわたしは、すぐにその手を解く。

「わたしのことはいいから、わたしは傷付いてもいいから。だから、ちゃんと向き合うべき人に向き合って。これも、ちゃんと、好きな人に渡して」

 ポケットにいれていたイルカのキーホルダーを春樹君に渡した。春樹君は、今にも泣きそうな顔をしてキーホルダーを受け取る。

 どうして? どうしてそんな顔するの? わたしのことなんてどうでもいいでしょ?

「ごめんね」

 わたしは逃げるように走った。