好きになっちゃ、だめでしたか?

「それよりさ、本人に直接話聞いてみない?」

 矢崎は、いいことを考えついた、とでも言いたげに手と手を叩く。

「本人って?」

 なんとなく想像できるが、一応聞いてみることにした。

「るいさん」

 やっぱり、想像していた名前が矢崎の口から出てくる。

「おま、まじで言ってんの?」

「そりゃ、まじだよ」

「つか、なにを聞くんだよ」

「神山くんのこと好きかどうか、に決まってんじゃん。それが1番はやいでしょ? もし好きだとしたら2人は両思い。留衣には残酷だけど、でも、傷は浅い方がいい」

 矢崎の考えを聞いた瞬間、出てきたのはため息だった。矢崎の言うことは最もで、もちろん俺だってそうするのが一番いい方法だと考えたことはある。

 もし聞いたとして、るいって人が神山を好きだった場合、俺たちはその事実を神山に伝えて留衣をフってくれと頼むとでも言うのだろうか。

 そもそも、急にそんなことを言われた神山は完全に驚くだろう。そもそも、伝えたところで神山が留衣をすぐにフるだろうか。

「もし、好きじゃなかったら?」

 るいさんとやらが神山を好きではない可能性ももちろんあるわけで。

「それはもう、見守るしかなくない? だって、そういう場合わたしたちにできることなんてないでしょ」

 矢崎は向かい側の校舎を見て「今日なら聞けるよね?」とにやりと笑う。

 理系クラスは普通科よりも週に3日ほど授業が1つ多いため、まだ授業中だった。

「分かったよ」

「さすが大野。話が分かる」

 とりあえず席に座って、出された課題を潰すことにした。外から野球部かサッカー部か、もしかしたら陸上部か、叫ぶ声が聞こえてくる。

「ていうかさ、大野は本当に留衣のこと好きじゃないわけ? 好きじゃないのにそこまで1人の人のこと考えられる?」

 矢崎は二本の指でシャープペンシルをぐるぐると回しながら、俺を見てきた。

「あいつさ、小さいとき近所の公園で男子にちょっかいだされて1人で泣いてたんだよ」

 今でこそいつも笑っている留衣だけど、小さい頃はいつも目を赤くしていた。