好きになっちゃ、だめでしたか?

 とは言え、昼休みの留衣の表情を見たときは心が大きく揺さぶられた気がした。

 あんな留衣は見たことがなかった。

 落ちこんだり泣いたり怒ったり、今までにいろんな留衣を見たことはあるが、好きな人のことであんな顔をするなんて知らなかった。

 神山といるときの留衣の笑った顔は、確かに……普段の留衣よりも可愛い。

 窓のところに立っていると、ぱっと留衣の部屋に明かりがついたのが分かった。

 カーテンを張っていて中は見えないが留衣らしきシルエットが見える。

 がすぐにいなくなってしまう。

 と思ったそのとき、カーテンが急に開いて留衣と目が合った。

 留衣は一瞬動作を止め、すぐに窓を開ける。

 窓を開けるように俺にジェスチャーで指示をしてきたから、俺も窓を開けた。

「なにしてんの?」

「空ぼーっと見てた」

「蒼って空見てぼーっとする人だっけ」

 と留衣は笑っている。でも、どうしても今は無理に笑っているように見えて、こっちのほうがうまく笑えない。

「大丈夫、なのか?」

 留衣は真顔になり、すぐに少しだけ悲しさを纏わせて「大丈夫、だよ」と言った。

 眉は下がってるし、視線も明らかに下を向いているし、なにが大丈夫なんだと言いたくなったが「そっか」としか言えなかった。

「ていうか、ピアノ練習しなよー」

「ちゃんとやってるって」

「ピアノ弾いてる蒼見て、久しぶりにかっこいいって思った。うん、本当に久しぶりにね」

 留衣は口元を隠してくすくすと笑う。

「俺いつもかっこいいだろ?」

「え、そうなの?」

「知らなかった?」

「うん、知らなかった。あ」

 留衣は視線を俺の後ろに移動させる。

「もー、2人仲良すぎだから。話全部聞こえてたよー」

 いつの間にか紗季が部屋の中にいた。

「ごめんごめん、幼馴染だからね」

「そっか、お兄ちゃんと留衣さん、幼馴染だもんね。幼馴染かあ。いいよね」

 と言う妹の声はいかにもなにかが含まれているのもので。しかし留衣は気付いていないのかあえて気付かないふりをしているのか「いいでしょ」と言うだけだった。

「じゃあ、また」

 留衣はスマホを見て、そろそろ行かないと、と言う。

「うん、また遊ぼうね」

「もちろん」

 留衣は窓を閉めて電気を消した。

「幼馴染、ねえ」

「なんだよ?」

「ま、いいけどね。それより、ご飯だよそろそろ」

 留衣の部屋のピンク色のカーテンを目に移す。もしかして、電気を消しただけで本当はいるんじゃないだろうか。誰も見えないところで泣いていたりしないだろうか。

 俺はカーテンから目を離して妹とともに部屋を出た。