「お兄ちゃん、漫画貸してー」

 と言って部屋にずかずかと遠慮もせずに入ってきたのは妹の紗季だった。

 肩まで伸びているさらさらな髪を、わざとらしく揺らしている。

 サイズオーバーなティシャツを着てんな、と思ってよく見てみると俺のだ。

「おま、それ俺のティシャツ」

「えー、そうだっけ? いいじゃん。たまには」

 と言う妹だったが、確か先週もパーカーを無理矢理取っていかれた記憶がある。

「それより漫画貸してほしいんだよねー。って、やっぱ少年漫画しかないじゃん。ね、今度留衣さんから少女漫画借りてきて」

 妹は俺のお気に入りの水色のぺちゃんこのクッションの上に遠慮なく尻を乗せた。俺はベッドからおりてクッションを妹の尻から救い出す。

「今から行けばいいじゃん、隣なんだから」

 妹はなにも言わず、かたい床の上に座っている。

「えー行ってもいいかな?」

「あ、でも、彼氏できたし今はいないかも」

 と言った瞬間、紗季は猛スピードで顔をこっちに向けてきた。

 目はありえないくらいに見開いていて、今にも眼球が落ちてしまいそうだ。

「え? 彼氏?」

 妹はなぜなのか、明日地球が破滅すると聞かされたくらいに驚いている。

「そう」

「え、え、お兄ちゃん、それでいいの? 留衣さんに彼氏できてもいいの?」

 妹の言葉に笑いが出そうになりながら

「は? べつにいいじゃん」

 と答えた。

「嘘、お兄ちゃんって絶対留衣さんのこと好きだと思ってた」

 その言葉に、今度は俺が眼球飛び出しそうなほどに目を見開く。

「は? なに言ってんだよ、留衣は幼馴染。女として見たことなんて一度もない」

 妹は今度は目を細くして睨んでくる。唇も最大限に尖らせて、いかにも不機嫌オーラを醸し出している。

「しーらない。後悔してもしらないんだからね」
 
 と言うと、妹はなぜか怒って部屋をでていく。

 俺が留衣のことを好き? 紗季の言っていた言葉を思いだすと、口から笑いが零れる。

 幼い頃なんて一緒に風呂に入った仲で、もはや家族みたいな存在だ。

 一体どうすればそんな勘違いが起きるのか、妹の頭を一度のぞき見してみたいものだ。

 椅子から立ちあがって窓のところに行き留衣の部屋を覗いてみると、まだそこに姿はない。