好きになっちゃ、だめでしたか?

 蒼のことだからきっと笑い飛ばしてくれる、そしたらわたしも蒼に合わせて笑うんだ、と思っていたのに、蒼は珍しく不機嫌な声を出して「誰だよそいつ?」と聞いてきた。

「体育祭で、うちのクラスに来てる理系の可愛くて美人な子」

「ああ、多分分かる」

 素直すぎる蒼の返事に、思わず声を出してしまう。
 蒼はなぜか「ごめん」と謝ってくる。

「その人が、本当のるいさん。わたしは偽物の留衣」

「なるほどな」

「るいさん、すっごく可愛いよね」

 蒼の顔を見るのに、蒼は私の言葉に「うん」と言わない。ただじっとわたしの顔を見ていて、その目は真剣だった。

「蒼はさ、どうしたらいいと思う?」

 ずっとわたしの近くにいてくれた蒼だからこそ、話そうと思った。

 ずっと近くで見てきたからこそ、なにかいいアドバイスをくれるんじゃないかと思って。

 だってわたしたち、仲のいい幼馴染だから。きっとわたしのこと、分かってくれているはずだから。

「お前はさ、このまま付き合いたい? それとも別れたい?」

 昨日からずっと自問していたことで、答えはもう出ている。だけど、きっとそれは間違っている。

「もう、蒼だって分かるでしょ? あんなにイケメンな人いないんだからさ、別れたくないよ」

 わたしは口角を上げた。そう、だって春樹君は、わたしにはもったいないくらいかっこいい。

 だから、別れたくない。

 わたしが無理矢理頬を上げるのに、蒼は笑ってくれない。

「なんで、嘘吐くんだよ? お前嘘吐くとき絶対右耳触るんだよな」

 言われて、右耳を触っている手を下ろした。

「嘘なんかじゃ」

「別れたくないの部分は本当だと思うけど、理由は違うだろ。かっこいいからだけじゃないだろ」

 蒼があまりにも真面目な顔をしているせいで、顔を見られない。

「それは……」

「好きなんだろ? 最初は確かに見た目かもしんないけどさ。お前があいつと話してるとき、すっげえ、むかつくくらい楽しそうだから」

 蒼は右足で床を蹴った。

「むかつくって、蒼が怒ることないじゃん」

「そうだけど、怒りたくもなるだろ? そんなん聞かされたら。間違いって、どういうことだよ?」