好きになっちゃ、だめでしたか?

 結局春樹君と一言も話をしないままお昼になり、一華と昼を食べてから1人音楽室に向かう。

 着くと、グランドピアノの椅子に座っている蒼の姿が見えた。

「遅い」

 蒼は開いているピアノの蓋を閉じ、椅子から立ち上がってわたしのそばに来た。

「男子が食べるのはやすぎなの」

「あっそ、で、話は?」

 蒼は壁に寄りかかり腕を組んだ。

「蒼、わたしが春樹君と付き合ってるの、もちろん知ってるでしょ」

 蒼はいつものような陽気な表情ではなく、少し冷たい表情で「ああ、うん」と言った。

「春樹君が告白してくれたとき、初恋だって言ってくれたの。その、幼い頃に遊んでくれて、それで好きになったって」

「お前、確かにいろんな人と遊んでたもんな」

 確かに、蒼の言う通りだった。

 わたしは知らない子ともよく遊んでいた。たまたま同じ公園にいた子とか、話しかけてその日だけの友達になっていた。

 でもね、それはほとんどが女の子だったんだよ。

 男の子と遊ぶときはいつだって蒼と一緒だった。

 男の子はまだ幼かったわたしにとってはよく分からない存在で、ちょっとだけ怖かったから。

 蒼がいると、知らない男の子がいてもなんとか大丈夫だった。

「でも、わたし最近」

 そこまで話すと、言葉を出したいのに声が出てこなくなる。

 話そう、と思うのに、喉からは空気しか出てこない。

「大丈夫か?」

 蒼の手が頭に乗って、ぽん、ぽんと優しく撫でてくれる。

「本物の、るいに会っちゃったの」

「本物?」

 蒼は目を丸くした。

「うん、春樹君の本当の初恋の相手。春樹君も知ってる、その人が本当の自分の初恋の相手だって」
 
 一つ一つ声を発するごとに、喉にちくちくと針が刺さるようだ。

「は? 勘違いで告白してきたってこと?」

「そういう、ことだよね」