好きになっちゃ、だめでしたか?

『でもあれだね〜、なんかみんな辛い感じ? 少なくとも神山君と留衣はさ』

 そう、今のところきっと幸せな人が一人もいない。

 神山君は好きな人を間違え、わたしはそんな神山君を好きになり、るいさんは……きっと神山君のことが好きだ。

 強がっていたけれど、好きだという気持ちは分かってしまう。

『絶対、神山君るいさんのこと好きだよね。分かるもん、初恋って特別って言うし』

『うん、まあね』

『ほんとに、どうしたらいいのか分かんない。どうしよう』

『分かるよその気持ち』

 そのあと、わたしはなにも返せなかった。

 言葉が出てこなかった。

 スマホを手放してもう一度天井を見た。

 考えれば考えるほど、糸がどんどんと絡まっていく。ため息ばかりが出てくる。

 なんであんなに可愛い人とわたしを間違えたりしたの?

 いくら幼い頃の記憶だからって言ったって、可愛い子は幼い頃から可愛いんだよ?

 きっと、るいさんは幼いからいろんな人の目を引いていたんだよ?

 わたしみたいな平々凡々な見た目の人と間違えるなんて、春樹君、それは残酷だよ。

 だって、どう見たって似てない。同じのは名前だけ。

 ねえ、春樹君。

 春樹君が告白してくれたあの日に戻りたい。

 もし戻ることができたら、わたしは春樹君にちゃんと伝えたい。

 わたしはあなたの初恋のるいじゃないよって。

 わたしの記憶の中には、どこにもあなたがいない。だからきっと本物のるいっていう子はどこかにいるよ。

 その子のことを探したほうがいいよ。もしかしたら、そばにいるかもしれないからって。

 じんわりと目元が熱くなって、布団で顔を覆い隠した。

 気持ちを押しこめようとすればするほど、反対にわああって溢れだしてくる。

 うっ、うっ。

 布団を顔に押し付けて声を押し殺した。春樹君がわたしに向けて笑ってくれた顔を、いやでも思い出してしまう。

 もう、きっとあんな顔を向けてくれることはない。

 春樹君が笑顔を向けたい本当の相手は、わたしじゃなくてるいさんなのだから。