好きになっちゃ、だめでしたか?

「あ、あの」

 ロングホームルーム後、わたしはすぐに席を立って廊下に出て行ってしまったるいさんのところに走った。

 知りたい、知りたくない。

 二つの矛盾する気持ちが心の中でせめぎ合っていて、でも買ったのは、知りたい、のほうだった。

「いきなり、ごめんなさい」

 彼女はわたしの顔を見ると一瞬固まったあと、あ、というような表情を作り、すぐに「どうしました?」と言った。

「あの、その、聞きたいことがあって……放課後、時間空いてますか?」

 自分でもそんな言葉が出てくることに驚き、手で口を塞ぐ。
 知らないことがいいことだってあるんじゃない? 本当に聞いてしまってもいいの?

 けれどもう後戻りはできない。

 彼女は隣に立つ友人に目配せをしてから「今日でも大丈夫ですか?」と聞いてきた。

「はい、もちろんです」

「じゃあ、帰りのホームルームが終わったら……玄関で待ってます」

「分かりました、ホームルーム終わったらすぐに行きます」

 るいさんたちは話が終わると行ってしまう。男子生徒はるいさんの顔を見て顔を赤らめている。

 彼女は、全てを知っている、というような落ち着いた表情だった。もちろん、わたしが今春樹君と付き合っていることも。

 なぜか?

 答えは1つしかない。
 わたしが春樹君の恋人だからだ。
 きっとるいさんは前から知っていたんだ。

 春樹君のことを見ているるいさんの目に、きっと嫌でもわたしが映ってしまうのだから。

 でももし、るいさんが本当の春樹君の思い出のるいさんだったら?

 わたしはどうしたらいい?
 どうするのが正解?

 ううん、大丈夫。今ならまだ春樹君のこと、そんなに好きじゃない。だってまだそんなに時間が経ってるわけじゃない。
 外見のかっこよさだけに惹かれて、まだほとんど中身を知らない。

 帰りに、車道側を歩いてくれる春樹君の優しさも、体調が悪いときに気づいてくれる優しさも、まだ春樹君の優しさなんて知らない。

 うん、なにも知らないんだわたしは。