好きになっちゃ、だめでしたか?

 理系クラスの人からふっと春樹君に視線を移動させたとき、春樹君が理系クラスの人を見ているのが分かった。

 その目は、いわゆるクラスメイトとかに向ける目ではなかった。
 嫌な意味で心臓がどくっと鼓動して、わたしはつい心臓のあたりを抑えた。

 心臓の鼓動がはやい。
 だって、春樹君の目は……。

 春樹君の目線の先には誰がいるのだろう、と追ってみると、あの可愛い人がいる。

 すぐにまた春樹君を見ると、その人から目を離してわたしを見た。

「るい、わたしちょっとトイレ行ってくる」

 その人の名前が耳にはいってきた瞬間、わたしの顔は糸で引っ張られたみたいにその人のほうに向く。

「あ、うん、分かった」

 その人は確かに‘るい’って呼ばれていた。
 わたしと同じ名前の彼女は、確かに男子が一目惚れしそうな女子だ。
 
 もう一度春樹君を見ると、もうその人を見てはいなかった。

「どうしたの? さっきからいろんなところ見て」
 
 春樹君はいつもの春樹君の顔をしている。
 けれどさっきの彼女の姿を見る春樹君を見てしまったらもう。

「あ、ううん。なんでもない。じゃあさ、水族館にしよ。最近行ってないんだ」

「うん、いいね、水族館。僕も久しぶりだよ。ペンギンとかいるかな?」

「いると、いいね」

 もう一度、同じ名前の【るい】さんに目を向けると、彼女は春樹君を見ていた。しかも、春樹君と同じ目で。

 わたしの視線に気付くと、すぐに春樹君から目を離してわたしに軽く会釈をした。

 わたしもつい、返してしまう。

「なにしてるの?」

「あ、ううん、なんでも」

 春樹君は、彼女のことをもう見ようとはしない。
 でもそれは自然に見ないのではなく、わざと見ないようにしているようにも思えるんだ。

 本当は彼女の顔を見たくて見たくて仕方ないけれど、わたしがいるから。

 もう一度彼女を見る。やっぱり可愛さは変わらなくて、むしろ見れば見るほど可愛さが増してくるようにさえ感じる。

 ねえ春樹君、春樹君の言う【るいちゃん】って、もしかして……。