好きになっちゃ、だめでしたか?

 数日後のお昼休み、勇気を出して自分から春樹君のもとに行く。
 春樹君、と名前を呼ぶとゆっくりこちらに顔を向けた。

「今大丈夫?」

「うん、大丈夫だよ。留衣から話しかけにきてくれるなんて、嬉しい」 

 春樹君は、子犬のような笑顔を浮かべた。けれどすぐに、口角が下がってわたしから視線を外す。

「あ、あのね。今度の休みなんだけどね」

 ここ数日、春樹君の様子がおかしい。
 心ここに在らず、という瞬間が結構あると言うか、一緒にいるのに1人を感じることがある。

「春樹君、大丈夫?」
  
 いや、そもそも春樹君がわたしを好きだというほうがおかしいと言うか……もしかしたら、冷静になってきたのかもしれない。

「あ、ごめん。それで、週末の話だよね?」

「うん、どっかに行きたいなあって思ってて。まだ、その、デート、したこと、ないなあって」

 わたしは、デート、という言葉を言うだけでも心臓が破裂しそうで。
 でも春樹君の顔は涼しそうだった。

「確かにそうだね。どこか行きたいところある?」

「わたし? そうだなあ、水族館とか遊園地とか? あ、それとも映画?」

「留衣と一緒ならどこでも楽しいよ、きっと」

 春樹君はわたしを見ながら、並びのいい白い歯を見せた。

「春樹君はどこがいい?」

 そうだなあ……と言って春樹君は考え始め、ときどき視線を廊下に投げる。
 誰かがいるのかな? と思ってそっちを見るけど、特に立ち止まってる人はいない。

「春樹君忙しかったら、全然大丈夫だよ」

「いや、大丈夫だよ。むしろ、楽しみ。2人で出掛けられるんだから」

 と笑う春樹君は、だけどなにかを無理しているように見えて、でもその【なにか】がなんなのか、わたしに全く分からない。

 それでも、春樹君から「楽しみ」と言われると口元がにやけてしまう。

 そのとき、体育祭の打ち合わせのために理系クラスの人がぞろぞろと教室にはいってきた。

 さすが理系クラス、皆明らかに頭が良さそうな雰囲気をしていて、でもその中にすごく可愛い人が一人いる。