好きになっちゃ、だめでしたか?

 すぐに廊下に出ると、春樹君は窓の外を見て立っていた。
 横顔が見える。
 すっとした鼻に、口元も出っ張っていなくてまるで西洋の彫刻のようだった。

 ただ立っているだけなのに、こんなに絵になる人なんて今まで会ったことがない。
 蒼も周囲の子たちはかっこいいと言われるけれど、春樹君とは比べ物にならない。

 いや、春樹君は綺麗なんだ。
 こんなに綺麗な人がこんなに普通なわたしに嫉妬なんて、するわけない。

 わたしが他の女子に嫉妬ならまだしも。

「今日は、家まで送ってっていい?」

 外を向いていた目がわたしに向いた。
 どきっ。
 また、心臓が動く。

「そ、そんな、いいよ、わざわざ」

「少しでも長くいたいから。何年も片思いしてたんだよ?」

 どきどきして、顔が火を灯したように熱くなって、春樹君の目が見られなくなる。

 それに、春樹君からそんな言葉を言われるなんて。
 心の準備ができていない。

「か、帰ろっか」

 春樹君から自分の鞄を受け取ろうとするのに、いいよ、僕が持つから、と言って返してくれない。

「それに、鞄渡したら途中で一人で帰るって言うかもしれないでしょ?」

「そ、そんなこと」

 春樹君はすごく甘いと思う。
 ショートケーキの生クリームよりも、ミルクたっぷりのチョコレートよりも。

 学校から駅までの道、自転車が前から来ると春樹君はわたしを自分の元に引き寄せて守ってくれる。

 電車では、席が1つしか空いていないと、絶対にわたしを座らせてくれる。

 駅から家までの道、春樹君は「同じ街に住んでるのに、留衣と歩いてると全然違うところみたいだ」と言って辺りを見ている。

「留衣はさ、中学のときとか、どんな感じだったの?」

「えっと、普通だよ、吹奏楽で、クラリネット吹いてて」

「そうなんだ、留衣、吹奏楽部だったんだ。留衣のクラリネット聴いてみたかったなあ」

「そ、そんな聴かせるほどのものじゃあ。春樹君は? 春樹君は何部だったの?」

「僕はバスケ」

「え、意外」

 春樹君が走ってゴールに向かってボールを投げて、というところを想像してみた。
 同時に、女子のきゃーっという歓声が聞こえてくる。
 うん、絶対にすごかったはず。

「そう?」

「うん、だってなんかこう、運動っていうより、もっと貴族っぽいことしてそうだったから」

「なに、貴族って」

 と春樹君は綺麗な顔を崩して無邪気に笑う。