「留衣、今日も一緒に帰れる?」

 いつものようにさらりと話しかけてくる春樹君は、付き合っていることを全く隠す様子がない。
 嬉しくて、だけど歯痒くて、春樹君が話しかけてくれるだけで告白されたときと同じように心臓が高鳴る。

「うん、もちろん」

 クラスメイトたちはもうわたしたちのことをすっかりと受けいれたようで、男子なんて「見せつけんなよー」と茶化してくることもある。
 
「ち、違うし」と反論しても、顔赤いくせに、と言われてしまうとなにも言えない。
 自分でも分かる。
 春樹君と話していると顔が熱くなって、つい手で顔を仰いでしまうんだ。

 春樹君はクラスメイトになにを言われても嫌な素振りなんて1つも見せず、1人だけいつも余裕みたい。
 それがなんとなく悔しくて、わたしもはやく隣に春樹君がいることが当たり前だと思いたいんだ。

「ったく、毎日毎日見せつけるねえ」
 
 と、蒼がため息混じりに文句めいたことを言う。
 ふーってわざとらしく息を吐いて、だらしなく椅子の背もたれに背中をくっつけている。

「み、見せつけてなんかないし」

「とか言って、ニヤついた顔がムカつくわー」

 と、蒼がわたしの肩に触れると、春樹君は蒼の手をそっと掴んでわたしの肩から離した。
 春樹君を見ると、けれど顔は笑っている。

「随分愛されてますこと」

「そ、そんなんじゃないし」

 今度は、はーっとため息を吐いた。
 蒼は、あーここら辺だけなんか暑くね? と言いノートで風を作っている。
 春樹君はそんな蒼に背中を向けて

「留衣、帰ろう?」

 と、わたしの鞄を持って先に教室を出て行く。

「あんな顔のやつでも嫉妬すんのな」

 春樹君が嫉妬……なんて、まだしてくれるはずない。

「と、とにかく。からかうのは止めてよね」