春樹君との時間はわたしにとってなによりも大切で、めいといるよりも本当は大切で、名残惜しくて、だけどどうしても耐えきれない。

 本当はもっと話していたい。あのときのこと、今までの春樹君のこと、わたしの知らない春樹君を教えてほしい。

 そして、あのときから春樹君が好きだったんだよって伝えてしまいたい。

 でも、そう思うほどに彼女の顔が思い出されて、言葉が消えてしまう。

 春樹君に背を向けてめいのところに向かう。

 はやく行かないと、はやく、じゃないと、泣いた姿を見られてしまうから。

 駆け足でめいのところに行くと「大丈夫だった?」と柔らかい手でわたしの手を包んでくれる。

「好き、なのに。やっと会えたのに。どうして、春樹君には彼女いるのかな。ずっとずっと、好きだったのに」

「るい……」

 流したくないのに涙が次から次に出てきて、顔が涙でびちょびちょになる。

 めいはわたしの手を握って「とりあえず、移動しよ?」と引っ張ってくれた。

 中途半端に春樹君と話してしまったせいで、今まで抑えてきた思いが全部あふれ出して、わたしを内側から痛めつけてくる。

 やっぱり、遠くで見ているだけでよかったのかもしれない。

 彼女がいる人に、なにかを望んじゃいけなかったのかもしれない。

 めいは何度も「大丈夫だよ」と言ってくれた。