「そっか、そうだよね。あれからもう、10年くらい経つんだから。でも、本当に元気そうでよかった。友達もいるみたいだし」

 春樹君は、めいのいる方向を見て笑う。

「心配してたから、大丈夫かなって、引っ越したあと」

 そんなことを言われたら、泣いてしまいそうになる。

 わたしの欲しい言葉を、春樹君はなんの躊躇もなく、昔の笑顔を浮かべて言ってくれる。

 でも春樹君。

 今のわたしには、その言葉がただ嬉しいだけじゃなくてとてもつらいの。

 彼女がいる春樹君に言われると、嬉しいよりもつらいのほうが勝っちゃうの。

「そう、なんだ。春樹君突然いなくなっちゃったから、どうしたのかと思ってた」

「ごめんね、一言くらい言えればよかったんだけど、急で」

「ううん、むしろ春樹君がいなくなっちゃったから、わたし自分で友達作らないとって頑張れたのかも」

「そっか」

 春樹君は笑うけれど、彼女に見せるような笑顔じゃなくてもっと抑えられたものだった。

「あの、友達待ってるから、行くね」

「あ、うん」