好きになっちゃ、だめでしたか?

「るい、大丈夫?」

 めいが「るい」とわたしのことを呼んだ瞬間、春樹君が再びこちらに振りかえる。
 
 その目は、さっきの無関心の色が100パーセントだった目とは違っていた。

 わたしのことを数秒見つめ、なにかを思いだしたように視線をずらし、首を傾ける。

「春樹、君」

 わたしはつい呼んでしまった、彼の名前を。

 だけど春樹君にはわたしの声は届かない。

 眉を下げて、少しだけ困った顔をしながらまた顔を前に向ける。

「春樹君……」

 ロングホームルーム中、わたしはほとんど春樹君の姿しか見ていなかった。

 いや、磁石のプラスとマイナスがくっつきあうように、わたしの目は春樹君をとらえるためにあった。

 なんの競技に出るかを決めたような気がするけれど、そんなのはどうでもよかった。

 春樹君、春樹君、お願いだからもう一度だけわたしを見て欲しい。

 1日だけでもいいからわたしの隣にいてほしい。

 ロングホームルームが終わり教室を出る前に振りかえると、春樹君と彼女が話している姿が目にはいってきた。

 その目は、彼女のことを大好きだと言っている。

 結局なにもできずに自分のクラスに戻ってきて、帰宅の準備をする。

 部活動にはいっていないわたしは、同じく帰宅部のめいと一緒に玄関に向かう。

 靴を履きかえて外に出ようとしたとき、まさかの春樹君の姿がめにはいってきた。

 春樹君はわたしを見ると壁から背中を剥がし、けれどなにもすることなくこっちを見つづけている。

 なにも言わずにめいと2人で彼の前を通り過ぎようとしたら「あ、あの」と話しかけられた。

 あのときよりも低いけれど、確かに春樹君の声だった。