好きになっちゃ、だめでしたか?

 春樹君は、確かにわたしのことを見ている。

 その目に、確かにわたしが映っている。

 春樹君、わたしだよ、心の中で大声で叫ぶ。

 ねえ、わたしのこと、覚えてる? 春樹君、わたし、あのときのるいだよ、春樹君に励まされたるいだよ。春樹君のおかげで、あのとき笑って過ごせたんだよ。

 だけど春樹君は残酷なくらいになんの反応も示さずに、再び前を向こうとする。

 と思いきや、彼女のほうを向いて、さっきの無表情からは想像できないほどの笑みを浮かべる。

 2人は目を合わせて、声は出さないけれどなにか2人にしか通じない会話をしているようだった。

 2人の間にはいる隙間はない、春樹君は彼女のことしか見ていないし、見ようともしない。

 2人のことを見るのは、想像以上に辛くて、知らない間に手がぎゅっと握られている。

 はっとして手を開くと、手のひらに爪痕がくっきりと残っていた。